MALT-AMSにおける標準試料について

MALTにおけるAMSで使用している標準試料の推奨参照値についてまとめます。論文等で記述する際、参考にしてください。


10Be-AMS

KNB5-1: 10Be/9Be=2.709×10-11
KNB5-2: 10Be/9Be=8.558×10-12
KNB5-3: 10Be/9Be=6.320×10-12
KNB5-4: 10Be/9Be=2.851×10-12
KNB6-1: 10Be/9Be=9.718×10-13
KNB6-2: 10Be/9Be=5.349×10-13

-補足説明-
現在MALTでは、カリフォルニア大学バークレー校の西泉邦彦さん(Dr. Kunihiko Nishiizumi)が2001年に作成・配布を開始した標準試料(MALTでは、”KN-standard”と称している)を用いている。これは、ICN(ICN Chemical & Radioisotope Division, Irvine, California, USA)の提供した10Beの標準溶液に安定同位体の9Beを加えることによって希釈したものである。元のICN溶液の10Be濃度は、放射能値で決められており、統計誤差が5%ある[1]。西泉さんは、放射能を同位体比に直すときに、当初10Beの半減期として、1.5×106年という値を用いたと述べている[2]。その後、同位体比の絶対測定を高精度(±1.1%)で行い、参照同位体比を改定している[3]。改定した値は、元の溶液の放射能値を用いると、半減期が(1.36±0.07)×106年に相当する。実は、かつて、NIST-SRM4325とKN-standardは、その参照値にずれがある、との認識があった[2][3]が、改定後は、ほぼ整合することになった。

[1]今村峯雄 (2003) 東大AMS用標準に関するメモ: “加速器C-14年代測定の実験室間の比較検定” (平成14年度科学研究費補助金(基盤研究;研究代表者:中村俊夫)研究成果報告書), 58-61.
[2] Nishiizumi, K. (2003) 10Be, 26Al, 36Cl, and 41Ca AMS Standards: “加速器C-14年代測定の実験室間の比較検定” (平成14年度科学研究費補助金(基盤研究;研究代表者:中村俊夫)研究成果報告書) , 46-57.
[3] Nishiizumi, K., Imamura, M., Caffee, M.W., Southon J.R., Finkel, R.C. and McAninch, J. (2007) Absolute calibration of 10Be AMS standards: Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 258, 403-413.
[4] Horiuchi, K., Matsuzaki, H., Osipov, E., Khlystov, O. and Fujii S. (2004) Cosmogenic 10Be and 26Al dating of erratic boulders in the southern coastal area of Lake Baikal, Siberia: Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 223-224, 633-638.

2014.6.24:松崎 浩之(記)
2014.6.29:松崎 浩之(追記)使用可能な全標準試料の参照同位体を掲載。また、有効数字を4桁表示。ただし、オリジナルのICN溶液の比放射能の誤差は5%あることに注意。


26Al-AMS

KNA4-1: 26Al/27Al=7.444×10-11
KNA4-2: 26Al/27Al=3.096×10-11
KNA4-3: 26Al/27Al=1.065×10-11
KNA5-1: 26Al/27Al=4.694×10-12
KNA5-2: 26Al/27Al=1.818×10-12
KNA5-3: 26Al/27Al=4.994×10-13

-補足説明-
現在MALTでは、10Be-AMS同様、カリフォルニア大学バークレー校の西泉邦彦さん(Dr. Kunihiko Nishiizumi)が2001年に作成・配布を開始した標準試料(MALTでは、”KN-standard”と称している)を用いている。これは、NIST-SRM4229(比放射能38.79Bq/g(±1.1%))を出発物質として、安定同位体27Alを加えて希釈されたものである。同位体比を算出する際に用いた半減期は、7.05×105yrである[5]。

[5] Nishiizumi, K. (2004) Preparation of 26Al AMS standards: Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 223-224, 388-392.

2014.6.24:松崎 浩之(記)
2014.6.29:松崎 浩之(修正・追記)MALT内参照コードと、参照同位体比の値の対応付けが誤っていたので、修正(KNA4-3として参照すべきものを、KNA5-1と表示しておりましたが、これは誤りでした。ただしくは、上に列記した通りです)。使用可能な全標準試料の参照同位体を掲載。また、有効数字を4桁表示。


129I-AMS

S-Purdue (Z94-0597): 129I/127I=8.378×10-1 class=”supText”2
S-Purdue2 (Z94-0596): 129I/127I=6.540×10-11

-補足説明-
現在MALTでは、 天然試料等129I/127I比の低い試料に対しては、”S-Purdue”標準試料を、人為起源 129Iの影響等で比の高い試料に対しては、”S-Purdue2″標準試料を用いている。 これらはPurdue大学PRIME Labより提供を受けたものである。これらの標準試料は、PRIME LabのZ94シリーズの中の2つであり、その既知同位体比は、Sharma1997[6]に記載がある。Sharma1997に記載されている値は、
Z94-0597: 129I/127I=8.378×10-12
Z94-0596: 129I/127I=6.3565×10-11
である。しかしその後、Z94-0596の値を129I/127I=6.5400×10-11
に改訂した[7]。ただし、改訂した値は私信で得たものであり、論文等には記載されていない(PRIME Labのデータベースには記述されている)。MALTでは、2013年度までは、Sharma1997に従って、6.36×10-11を用いて来たが、2014年度以降は、改訂値を用いる事とする。
MALTユーザーが実際の研究において、ノーマライズにS-Purdue2を用いる場合、参照値としては、129I/127I=6.54×10-11を用いる事を推奨する。この場合、論文等には、参照値の出典としてSharma1997を参照した上で、その後値が改訂された旨を記述する。一方、過去の研究との連続性を重視する等の理由で、129I/127I=6.36×10-11を使っても良いが、その場合、必ず、Sharma1997を参照し、データのトレーサビリティーを担保すること。

-補足 その2-
2012年にS.Freeman (SWERC)は、Z94-0596の真の値は、129I/127I=7.53×10-11であると主張した[8]。このことを確かめるために、PRIME LabのHeadである、Marc Caffeeに連絡したところ、上記の改定値を得た、という経緯がある。また、MALTにて、S-Purdueシリーズを、NIST-SRM3230-L1(1.67×10-11)およびNIST-SRM3230-L2(9.85×10-12)と比較した結果、L2はほぼ整合したが、L1は10%程度食い違っていた。いずれにしても、どの標準試料の参照同位体比が正しいのかは現時点では、不明である。重要なことは、用いた標準試料の参照値の出所をはっきり記載し、トレーサビリティーを担保することである。

[6] Sharma, P. (1997) The 129I AMS program at PRIME Lab: Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 123, 347-351.
[7] Caffee, M. (2012) Private communication.
[8] Freeman, S. (2012) Private communication.

2014.6.24
松崎 浩之(記)

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